2021年11月16日火曜日

踏み切り板をとべ - 九州の旅(6)



2021年11月15日(月)
二人で9時半に起きる。眠い眠い。

宿は五島町にある。
部屋の窓には、少し重みのある木製のブラインドが付いている。向こうは湾。船着場がよく見える。建物には黄色い巨大な球が上についている。遠くは山の斜面を覆い尽くすようにたくさんの家屋がある。

宿を出て、コーヒーとパンを売っているお店に行く。古い建物の風合いをそのまま生かした室内で売っている。空間は広いが、置いているものはシンプル。数種類のパンとエスプレッソマシンだけ。テイクアウトして港に行く。チョコパンが大きくて美味しい。カリッと、というよりはサクッとしている。

ロープウェイで稲佐山という山の頂上の展望台まで上がれるので、それを目指す。宿を完全に離れたので重い荷物を持っていて、やや疲れる。あまり寝られていないせいでもある。

途中、駅前の新しいイベントスペース「出島メッセ」のトイレを借りる。広いですねえ、新しいですねえ、と言いながら建物を出ようとしたら、自動ドアが開かなかった。どのドアを調べても開かず、結局インフォメーションにいた人に鍵を開けてもらった。今日は休業日なんです、という。なぜ入る時は開いたんだろう。まだ開業して2週間ほどだそう。

ロープウェイは、可もなく不可もなく、というところ。少し高かった。バイクで頂上まできた方がよかったな。

山を降り、ご飯を食べる。だいごさんが前日にマークしておいた中華屋でちゃんぽん、皿うどんを食べる。僕はちゃんぽん派である。
その後今日と明日の宿にチェックイン。しばし呆然とする。

港の喫茶店に行って、みさきと合流。少し遅れて大吾さんもくる。
ジェラティーナを頼む。コーヒーゼリーにミルクが注がれている。
みさきはカフェラテ、だいごさんはエスプレッソ。ハマっているのだ。

話している途中で、にゃー、にゃー、と声が聴こえてきた。店の脇の階段にいた猫だった。思わずかわいいねえ、と猫を撫でた。そうか、猫撫で声ってこのことか。

美術館に行く。隈研吾事務所設計の建築。建物もとてもいいし、展示も良かったのだが、お客さんは僕と大吾さんとみさきしかいなかった。展示について語り合いながら堪能した。ミロの絵がハイライト。

街に戻り、カレーを食べる。特に長崎らしいというのではないが、これでいい。おいしかった。途中でしゅうじさんも合流。

昨日の疲れもあって早めに退散。
しかし、最後に山に登っておこう、と、カブでだいごさんと鍋冠山に登る。15分ほど。
夜景が綺麗だ。綺麗だが、綺麗すぎなくて、横目に話すくらいがちょうどいい感じが好ましかった。一時間くらい、お互いのこれからの話をする。

寒くなってきたのでそれぞれの宿へ。
帰ったら、シャワーもあびずにすぐ寝てしまった。

踏み切り板をとべ - 九州の旅(5)

2021年11月14日(日)

昨日少し飲み過ぎた。7時に起きる。シャワーを浴びて、荷物をまとめて、ロビーに降りた。別に希望したわけではなかったのだが朝食がついているプランで、食券を渡したら野菜カレーが出てきた。ドリンクはハーブティーとコーヒーが選べた。ハーブティーを選んだ。なんとなくお酒の後の日にはこちらがよい気がした。
出発しようと思ったら、空が薄暗い。道ゆく人をみると、中には傘をさしている人もいる。あまり寒さのことを考えない格好で来てしまっているので、ゲンナリした気持ちになる。もう一枚、もっと暖かい上着が欲しい。
とにかく、カブにまたがって長崎の滑石を目指して出発。
走り始めて5分でもう体が冷え込んできた。太陽が出ていないと、とても寒い。暗いと気分も晴れない。
早く陽が出てくれることを切に願う。

途中、佐賀市と久留米市が交互に出てくる箇所がある。筑後川と、それを挟んだ向かいの山脈の様子がとてもきれいだった。

休憩したセブンイレブンで、小さい男の子がカブに興味を示していた。
「カブみたい! ねえ、カブみたいだよ!」
そう、カブはカブでも新しいカブだよ、と教えてあげる。
「家にね、カブがあるんだけど、無くしちゃったの」
という。
見つかるといいね、と言った。
「カブ、カッコいい!」
そう言って男の子は手を振りながらお母さんとコンビニに入って行った。

かっこいいカブに乗って、滑石についた。
後半はだいぶ陽も出てきて楽だった。それまで安っぽいレインコートまで着て寒さを凌いでいたが、太陽が出てきてから、途中で脱いだ。

滑石の公民館横のスペースで、大橋昂汰くん、大吾さん、Misakiに会う。大橋くんと一緒にジャグリングをしている子供たちもいる。
動画で見たことのある場所だった。

大人と子供、互いに自己紹介をする。
一部の子を除いてみんななかなかシャイである。
男の子からいろんなお話を聞き、女の子と一緒にごっこ遊びをした。
ローソンで軽食を買ってきて食べる。集まりは誰にも何にも拘束されていない。

しばらくして、みんなにあいさつをしてバイクで長崎に一足先に帰る。
泊まる部屋に入って、仕事をする。

明日以降の宿を調べたりしながら窓の外を見やって、不安な気持ちが襲ってきた。
ずっと移動してホステルに泊まっていたら、お金が目減りするだけだな、と思って。
働いてはいるし、収支で言えばプラスなのだが、そういうことではないのだ。
でも、定住がスタンダードだ、ということへの本能的な違和感もあるから、その両方を等しく感じたんだと思う。
いい時間だった。

仕事を終え、改めて大吾さんとみさきと、みさきのパートナーのしゅうじさんと合流。長らく行きたかったイタリアンのお店でご飯を食べる。
これも、店主のケンさんを交えて長々と話し、とてもいい時間だった。
壁に絵も描いた。

大吾さんと部屋に帰り、対談をしたり、絵を描いたり。寝たのは3時半だった。

2021年11月14日日曜日

踏み切り板をとべ - 九州の旅(4)

2021年11月13日(土)

朝7時のアラームをかけたが、4度か5度スヌーズを止めて、起きたのは8時。部屋は暗い。シャワーを浴びて、バイクに乗るための暖かい格好に着替える。ヒートテックを履く。上は4枚重ね着する。だがこれから乗るのは電車だ。

その前に、昨日行ったカフェにもう一度、今度はモーニングを食べに行く。僕が最初の客だった。その後すぐに4、5人の人が入ってきて注文する。二番目に入ってきたいかつい男の人が、クリームソーダを頼んだ。僕はサラダと目玉焼きとトーストの豪華なモーニングを箸で食べ、締めにクリームを入れたコーヒーを飲む。

小倉駅へ。昨日、門司港にバイクを置いてきたので取りに帰る。ついでになんの縁か、たまたま今日門司港に着くという、かつて一緒に働いていた二人の友人M、Iと、昨日の友人Kとで合流して会うことになる。

僕は一足先にバイクを回収する。昨晩お酒を飲んだから、カブはKが働く宿に置かせてもらっていた。宿の「女将」であるさくらさんにもお礼を言う。昨日見た地平線を、今度は明るいうちに見に行く。同じ道を走っても、夜、雨の中で行くのと晴れた青空の下で行くのでは全く違う。走るには、晴れている、明るいうちがいい。

灯台に着いて、100段くらいある階段をまた上まで登る。50代同士くらいの夫婦が階段の途中で景色を見下ろしていた。天気いいですね、と挨拶し、追い越す。灯台がある高台のてっぺんに着いたら、僕も海を、上から見下ろす。

船が行き交っている。

夜の方が船は大きく見えていたような気もする。

波の音は聴こえない。

今日は、いい景色だな、とだけ思った。

カブで、門司港駅まで一気に戻る。20分ほど。20分というとすぐなような気もするが、バイクで走る20分は少し体感が違う。20分間バランスをとっている。

予定よりも早く駅に着いたので、ベンチに座って少し仕事をする。カブは港に置いた。多分こういうことには寛容だろうなと思った。向こうから、Kと宿で出会った人二人が来る。一緒にMとIを待った。

※※※

K、M、Iと一緒に洋食屋で昼を食べて、港で少し過ごし、通りがかりの子供にジャグリングを見せてから、3人に見送られて出発。ここから久留米まで一気に走る。2時間半ほど。門司港を抜けてからはほとんど真っ直ぐ。山道を抜けていく。地図上で見た時は、山の中のひとけのない道を走るのかと思っていたが、それなりに家や畑はある道を通っていく。途中、余裕だと思っていたガソリンが少なくなってきて給油。現金のみの小さなスタンド。また走る。意外に暗くなるのが遅い。17時を過ぎてようやく暗くなってくる。南に走っていってるんだな、と思う。

久留米に着いたが、ホステルに着く直前まで、本当にここでいいのかな、と思う。周りがあまり明るくなかったからである。都市に近づくと、それなりに明るくなっていくと思っているが、久留米ではそれがあまりなかった。

着いたホステルの前にカブを停める。西鉄久留米駅の目の前にあるとても新しいホステル。入り口の上にはネオンサインがあり、中はおしゃれなバーのようになっている。一階が広いバーだ。カブの隣には自転車があって、ここに二輪は置いておけそうだ。受付を済ませて部屋に上がる。

部屋に落ち着いてからInstagramを開いたら、大学時代の友人Aが久留米にいるということがわかった。そう言えばそうだった。その場でチャットしてみる。するとすぐに返事があって会うことになった。一時間後には駅で会っていた。

歩いて街を案内してもらって、いつも通っているという焼き鳥屋に行く。席に着くなり、店員のおいちゃんに「焼酎でいいっちゃろ」と言われていて、なじみであることがわかる。でも今日はビールで乾杯してもらう。店にいるみんなの距離が近くて居心地がいい。それからすぐ近くのラーメン屋に入ってラーメンでしめる。

そのあと帰り際、雰囲気がいいバーの近くを通る。せっかくなら、と入ったら、中はまるで魔法学校のような佇まい。1957年からやっているそうだ。カウンターにいたのはもう今年で84歳だという女性。でも元気。昔の話をしてくれた。Aと同じ高校だというので、その話で盛り上がっていた。昔の写真も見せてもらう。

一杯飲んだだけで帰ったが、ひとり2500円だった。びっくりしたけど、でもいいお店だった。

明日は長崎に向けて走る。



2021年11月13日土曜日

踏み切り板をとべ - 九州の旅(3)

2021年11月12日(金)

少し小倉を探検してみようと思い、ショルダーバッグを肩にかけて歩き出す。1日では到底この地域のことなんてわからないと思う。でも、それは1年でわかることなのか。一生かけたらわかることなのか。

駅前まで歩いてユニクロに入る。びしょ濡れの靴の代わりに履くためのスリッポンを買う。二足を適当に入れ替えたほうが靴も長持ちするから、この方がいい。
駅前の雰囲気がだいたいわかったので、宿の方に戻り、旦過市場に入ってみる。ボロボロの建物に、今にも崩れ落ちそうな屋根がかかっている。韓国を思い出す。これはいい。売っているものに生々しさがある。店の奥を覗くと、ざっと50年以上は前から使い続けられているであろうものたちが顔を覗かせている。シンガポールの小汚いけど美味しい屋台のことも思い出す。

一度部屋に帰りパソコンをとってくる。外に出て、タリーズコーヒーに入る。さっき散歩している間、川沿いにあるのが目に入ったのだ。川沿いの席に座ると、机の高さもちょうどよく、作業の手を止めて顔を上げると川が見えた。しっかり気が紛れるのでいい。ずっとは集中できないからこれがいい。カフェラテを飲みながら、文字起こしをする。目の前には、NHKの北九州放送局と、小倉城が見えた。雨が不規則に降っている。時に前が見えなくなるくらいの雨が降る。でもそれは10秒もすると止んで、いきなり晴れたりする。妙な天気だ。

文字起こしの仕事がひと段落つき、今度は商店街にある別の個人経営のカフェに行く。もう開業54周年だそうで、年季の入った店内だ。カウンター席とテーブル席がある。カウンターにはランプが吊り下げられ、テーブル席は少し低めの革張りのソファ。純喫茶である。奥のドアを開けた先に喫煙席があって、店内には煙はない。おそらく数年前まではここも紫煙に包まれていたのかな、と想像する。来るお客さんは若い人が多く、主に動いている店員さんも若い学生ふうの女性で、マスターはずいぶん歳をとって椅子に座っているけれども、なんだか今でも店が、地元の人に生き生きと利用されている感じがする。頼んだコーヒーもとても美味しかった。チーズケーキも食べた。ここでは絵を描く。場所ごとに作業は決まる。

その純喫茶をあとにし、今度はドトールに入る。さっきタリーズにいる間にメールで来た仕事を終わらせたい。今日中に終わらせたい。ココアを頼んで、集中してやる。わざわざ小倉まできてドトール、でいい。仕事がそれなりにある方がいい。場所はどこでもいい、と思えるのがいい。

予定通り終わらせてドトールを出て、カブを取りに行って、そこから30分ほどかけて門司港に行く。かつて一緒に働いていた友人がそこにいるのである。たまたま、僕がこちらに来る日程と被って門司港のゲストハウスで働いているのだ。

途中からポツポツと雨が降り始めた。少し激しくなったかと思うと止み、また降り出し、を繰り返す。そうこうするうち、完全に止んで、雲は晴れ、月が眩しいほどに浮かんでいるのが見えた。岬の灯台の方までバイクで行ってみたのだが、さっきまで真っ暗であまり先が見えなかったのが、今は月明かりのおかげでかなり先まで見える。

5、6艘の船が常に行き来している。

地平線が長い。

今いる地表の様子が少し違って感ぜられる。

向こう側は山口県だ。

星も多い。

いや、星はずっと同じ数だ。ただ、そこにあるのが今はこちらに分かる、ということだ。

岬から帰ると、件の友人と一緒にご飯を食べることにした。
唐揚げと瓶のキリンビールを頼む。甘いタレがかかった唐揚げは、今まで食べたどんなものよりも肉が柔らかくて、まったく違う食べ物のようだ。

ホッとする気持ちと、いつもと違う土地にいることの高揚感が、二匹の子猫のようにぐるぐると、じゃれあっているような気分になる。

市場で、今までまるで存在も知らなかった日本の姿を見ること。
川沿いのタリーズで仕事をすること。
知らない土地で美味しい唐揚げを食べること。

店を去り際に、ここは何時までやっているんですか、と聞いてみた。「本当は10時くらいなんですけど」と言った。今は夜の11時。20人ほどが座れる店内だが、ほとんどお姉さん一人でやっているそうだ。
「来ない時は平日なんて全然来ないから、お客さんが来てくれる方が嬉しいんですよ」

帰りはJR門司港駅まで見送ってもらって、終電で帰った。
小倉駅からは、歩いて宿まで帰った。小倉の町は飲み屋が星の数ほどあって、まだまだ楽しそうな人たちで賑わっていた。


2021年11月12日金曜日

踏み切り板をとべ - 九州の旅(2)

2021年11月11日(木)フェリー「はまゆう」〜小倉

朝7時ごろに一旦目が覚める。寝床そのものは、小さいが快適だった。しかし、船がとにかく揺れる。地震でいえば震度3ぐらいの揺れが常に身を襲っている(横になっていると余計に浮き沈みがわかる)。寝入る前は落ち着かなくて、地震に似た揺れがくると反射的に身構えてしまい、なかなか寝つけなかった。それでも一応「朝」と言える時間に目が開いた。ひとまずズボンを履いてロビーに出てみた。

人はほとんどいなかった。そもそも乗船客が少ない。50人ほどだろうか。朝日が差し込んでいる。昨日の夜中には気が付かなかったが、この船の窓からは景色がよく見える。朝のうちにひと仕事しようかとも思ったが、どうにも眠いのでもう一度布団に入った。

8時を過ぎると、船中の明かりがついた。ロールカーテン越しに明かりを感じる。まだ眠いので、横になったまま目を閉じる。

「横須賀を目指す船それいゆとすれ違います、またとない機会ですのでぜひご覧ください」

と放送が入った。またとないも何も、毎日運行してるんだから1日1回はすれ違うだろう、と思った。

10時半ごろに、再び起きる。今度はぱっちりと目が覚めている。売店でクリームパンを買った。保存の効くパネトーネ種の小麦を使ったパンだった。わりに美味しい。レストランにあったコーヒーマシンでコーヒーも淹れて、朝ごはんらしくした。カフェオレを買ったのだが、やたらに甘かった。

大浴場に行く。浴室にいたのは一人だけで、露天風呂でずっと半身浴をしていた。僕もそこへ混じる。風がものすごい勢いで吹き付けている。水面に激しく波が立っていて、海の様子と共鳴している。これも昨日の夜には気が付かなかったが、屋上だけあって、一段と綺麗に海の様子が見えた。少し遠くに陸地も見える。

風呂を上がって、ロビーに戻り、しばらく机で仕事をした。とても静かだ。聞こえるのは、船の唸りだけである。隣にスリランカの人が座ってきた。話を聞くと、福岡に住んでいて、筑波から車を買って帰ってくるところなのだという。もう8年も日本に住んでいるというので日本語はとても流暢で、まるで日本で生まれ育った人かのようだった。

昼は、一回ぐらい行っておくか、と思って船内のレストランで食べた。長崎ちゃんぽん800円。安くもないし特別な味はしないが、美味しかった。横に、昨日横目で見ていた取材中の女性が座った。船に泊りがけで取材をしているのだ。

昼を食べて再びロビーの仕事スペースに行く。どうにも何か口にしていないと落ち着かず、缶コーヒーをちびちび飲みながら文字起こしと翻訳の仕事を交互に行った。途中で場所も移動して、レストランからの景色を描いたりした。持ってきた『コン・ティキ号探検記』も読んだ。たくさんのことを一度にやらないと落ち着かない。一個のことをじっとやり続けることができない。

今回の旅は、自身の生活態度と向き合うためのものだ。

「踏み切り板をとべ」というのは、加藤典洋さんという大学時代の師匠からもらった、文章への批評である。青木はいつまでも調べてばかりで肝心の中身になかなか踏み出さないけど、文章を書くには、どこかで踏み切り板を飛ぶ、もうそこから先は躊躇して線を越えたらアウト、という線を作るんだ、ここからはもう後戻りしないで、勢いよく飛ぶんだ、そういう書き方をしなさい、という主旨だった。

この指摘は、文章に対するもの、というよりも僕自身の性格に充ててなされた批評だと解釈している。加藤さんは、間違ってもいいからもうここを越えたら自分の選択についてつべこべ言わない、そういう「振り返らない」態度を持て、と言ったのだ。

九州を、いつも通り仕事をしながらバイクであてもなく旅する、というテーマとしてはごくシンプルなこの移動は、振り返らない、納得をどこでするか、という線引きをより明瞭にするための修行としての旅である。

自分でルールを決めるんだ。

そういうテーマのある旅である。

もうすぐ下船の時間になる。


※※※


下船する直前、件のスリランカ出身の青年と連絡先を交換した。歳を聞いたら同い年。「博多通る時はいつでも連絡してよ」という。旅は人を軽くする。

下船時、「新門司港の天候は雨です」という放送が入った。雨用の装備に着替える。人数が少ないせいもあるが、下船が始まってすぐにロビーの外に出た。カブに乗る。

出口まで徐行し外を見ると、嵐のようだった。風は強く、雨も激しい。この時点でカッパを羽織って、手袋も防水のものに替えておけばよかった。しかしただ単に嵐のように見えるだけなんじゃないか、という理由のない自信があって、そのまま外に出た。

案の定1分もたたないうちにびしょ濡れになり(当然です)、手も足も冷え込んできた。ここから小倉の宿まではおよそ30分。暗いし、寒いし、ひとけはないし、惨めな気分になる。しかも、船で長時間振動が加わったのが原因か、温度差か何かが原因と思うのだが、ブレーキをかけると停止直前にキイキイ音がする。靴は一足しか持っていない。濡れてしまうと明日以降が不快である。なんで靴用のカバーを持ってこなかったろうか。「持って来ればよかったものリスト」は旅の序盤から、いや、序盤こそどんどん更新される。簡単に動けるジーンズ以外のズボンも持って来ればよかった。ジーンズをいちいち履くのが面倒だ。散々旅をしていても、全然学習しない。

明日ユニクロにでも行って足りないものを買おう、と思う。

宿は、旦過市場という古い市場の横にあるホステル。その目の前に駐輪場があったので、そこにバイクを停める。

中に入ると、お姉さんが部屋まで案内してくれた。びしょびしょになった装備を絞ったりハンガーにかけたりして、明日までにそれなりに乾くことを願う。

ひとまずホッとしようと思って、ホステルの下にあるローソンでビールとお菓子を買ってきて、飲みながら本を読む。

バイクで旅をするというのがどういうことかを学習しているんだな、と思う。



2021年11月11日木曜日

踏み切り板をとべ - 九州の旅(1)

しばらく九州の旅に出る。カブに乗って、気が済むまで走るつもりである。道中では色々なところで仕事をしながら、ものを考えながら過ごすつもりである。

2021年11月10日(水) 横浜自宅〜横須賀
綴方でTak.さんに絵を渡して、夜9時に横浜の家を出る。
本当は8時半に出る予定だったが、支度が思ったよりかかった。バイクにどう荷物を積むか試行錯誤していたせい。
おおむね国道16号をまっすぐ下っていき、一時間と少しで横須賀に着く。横須賀に入った途端、5分間くらいだけアメリカを感じた。
道が広い、建物が平坦。
米兵がおり、英語を喋っている。
僕はマーベルコミックの映画シリーズにどハマりしているので、そのせいでアメリカンイングリッシュを聴くと気分が高揚する体になってしまっている。
フェリー乗り場は、コンテナが積んであるエリアを入って少し奥まったところにあった。旅という理由がなければ入らないであろうところに入っていくのは楽しい。乗り場はとても新しい。目の前でトラックが停車していて長いことかかっていたので、誘導の人をスルーしてとりあえずターミナルに向かい、停車する。
これから遠くに行く、ということがいつにも増して大袈裟な実感を持って去来する。とても、とても興奮する。
これか、これが欲しかったのか俺は、と思う。同時に、これは、新鮮なうちにこれからの旅の糧になるように、「やり方」として定着させなければいけないぞ、自分にとって旅とは、何が本質的にいいのかを見極めて、それを次のもっと大きな旅の時に同じようにできないといかんぞ、と思った。

なんでこんなに興奮しているんだろう?

イギリスに行く時よりも嬉しい気持ちでいるように思う。そうでもないかな。

乗船時間になり、最徐行でお願いします、と係の人が言う。それに従い、ギア1速のまま、車2台がすれ違えるぐらいの長く広いタラップを登り、はるか上にある(ように見える)船の中へと登ってゆく。船に入ると、青い棒のところまでカブを進めて固定してもらう。

歩いて船内に入る。明るい色、清潔な船内だ。一昔前の安い船旅はこうはいかなかっただろうと想像する。
小さな売店、ジム、露天風呂まである。とりあえず部屋に入る。一応最低ランクのバンクベッドの部屋で、カプセルホテルのような作りではあるが、とてもいい部屋だ。ロールカーテンの仕切りもあって、自宅の部屋よりも寝やすいかも。
荷物を置きしばらく船内を散歩した後、風呂に行く。大浴場だ。普通の銭湯くらいの大きさはある。サウナは、今コロナ対策だというので使えないが、それでも、最上級の贅沢をしている気分だった。僕が入った時には一人おじさんが露天風呂で外を眺めていたが、僕が入って2、3分したら出ていったので、独り占め。空を見上げて星を見た時、角幡唯介氏が北極で星を見たときの話をおもいだした。

風呂を上がり、売店でカフェラテ味の白くまを買う。取材で来たのだろうか、スーツを着た人がいる。横目で見ながらアイスを食べる。寝る前に今回の旅でやるべきことの弾みをつけよう、と思って、一番デスクワークがしやすそうな一人用の机を見つけ、ハガキ大のスケッチブックに絵を描き、日記と今日の感想を書く。
ひとつひとつ、「これが一番のやり方じゃないかもしれない」と感じながらでいいから、とにかく手を動かし、ものを作り出す。


2021年11月2日火曜日

ながいつぶやき(206)ちまちましたことをしないで

九州に行く予定を立てている。そもそもいつからいつまで行くか、ということを決めるのに、その周りの予定も関わってきて、このぐらいの日数行くのであれば、これぐらいの予算を立てたいから、そのためにはその後の期間でこれぐらい稼ぐ必要があるな、とか、逆にこの期間を稼がないことに充てる代わりに、家にあるものを少し売って足しにすればいいかな、とか、色々と可能性を考えるのが楽しい。

楽しいのだが、こんなちまちましたことをしないで、豪快にえい、と行きたいように行きたいところに行って、カネなんか後で考える、という態度でいられたらどんなにいいか、とも思ったりする。