2021年11月13日土曜日

踏み切り板をとべ - 九州の旅(3)

2021年11月12日(金)

少し小倉を探検してみようと思い、ショルダーバッグを肩にかけて歩き出す。1日では到底この地域のことなんてわからないと思う。でも、それは1年でわかることなのか。一生かけたらわかることなのか。

駅前まで歩いてユニクロに入る。びしょ濡れの靴の代わりに履くためのスリッポンを買う。二足を適当に入れ替えたほうが靴も長持ちするから、この方がいい。
駅前の雰囲気がだいたいわかったので、宿の方に戻り、旦過市場に入ってみる。ボロボロの建物に、今にも崩れ落ちそうな屋根がかかっている。韓国を思い出す。これはいい。売っているものに生々しさがある。店の奥を覗くと、ざっと50年以上は前から使い続けられているであろうものたちが顔を覗かせている。シンガポールの小汚いけど美味しい屋台のことも思い出す。

一度部屋に帰りパソコンをとってくる。外に出て、タリーズコーヒーに入る。さっき散歩している間、川沿いにあるのが目に入ったのだ。川沿いの席に座ると、机の高さもちょうどよく、作業の手を止めて顔を上げると川が見えた。しっかり気が紛れるのでいい。ずっとは集中できないからこれがいい。カフェラテを飲みながら、文字起こしをする。目の前には、NHKの北九州放送局と、小倉城が見えた。雨が不規則に降っている。時に前が見えなくなるくらいの雨が降る。でもそれは10秒もすると止んで、いきなり晴れたりする。妙な天気だ。

文字起こしの仕事がひと段落つき、今度は商店街にある別の個人経営のカフェに行く。もう開業54周年だそうで、年季の入った店内だ。カウンター席とテーブル席がある。カウンターにはランプが吊り下げられ、テーブル席は少し低めの革張りのソファ。純喫茶である。奥のドアを開けた先に喫煙席があって、店内には煙はない。おそらく数年前まではここも紫煙に包まれていたのかな、と想像する。来るお客さんは若い人が多く、主に動いている店員さんも若い学生ふうの女性で、マスターはずいぶん歳をとって椅子に座っているけれども、なんだか今でも店が、地元の人に生き生きと利用されている感じがする。頼んだコーヒーもとても美味しかった。チーズケーキも食べた。ここでは絵を描く。場所ごとに作業は決まる。

その純喫茶をあとにし、今度はドトールに入る。さっきタリーズにいる間にメールで来た仕事を終わらせたい。今日中に終わらせたい。ココアを頼んで、集中してやる。わざわざ小倉まできてドトール、でいい。仕事がそれなりにある方がいい。場所はどこでもいい、と思えるのがいい。

予定通り終わらせてドトールを出て、カブを取りに行って、そこから30分ほどかけて門司港に行く。かつて一緒に働いていた友人がそこにいるのである。たまたま、僕がこちらに来る日程と被って門司港のゲストハウスで働いているのだ。

途中からポツポツと雨が降り始めた。少し激しくなったかと思うと止み、また降り出し、を繰り返す。そうこうするうち、完全に止んで、雲は晴れ、月が眩しいほどに浮かんでいるのが見えた。岬の灯台の方までバイクで行ってみたのだが、さっきまで真っ暗であまり先が見えなかったのが、今は月明かりのおかげでかなり先まで見える。

5、6艘の船が常に行き来している。

地平線が長い。

今いる地表の様子が少し違って感ぜられる。

向こう側は山口県だ。

星も多い。

いや、星はずっと同じ数だ。ただ、そこにあるのが今はこちらに分かる、ということだ。

岬から帰ると、件の友人と一緒にご飯を食べることにした。
唐揚げと瓶のキリンビールを頼む。甘いタレがかかった唐揚げは、今まで食べたどんなものよりも肉が柔らかくて、まったく違う食べ物のようだ。

ホッとする気持ちと、いつもと違う土地にいることの高揚感が、二匹の子猫のようにぐるぐると、じゃれあっているような気分になる。

市場で、今までまるで存在も知らなかった日本の姿を見ること。
川沿いのタリーズで仕事をすること。
知らない土地で美味しい唐揚げを食べること。

店を去り際に、ここは何時までやっているんですか、と聞いてみた。「本当は10時くらいなんですけど」と言った。今は夜の11時。20人ほどが座れる店内だが、ほとんどお姉さん一人でやっているそうだ。
「来ない時は平日なんて全然来ないから、お客さんが来てくれる方が嬉しいんですよ」

帰りはJR門司港駅まで見送ってもらって、終電で帰った。
小倉駅からは、歩いて宿まで帰った。小倉の町は飲み屋が星の数ほどあって、まだまだ楽しそうな人たちで賑わっていた。


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