2021年11月22日月曜日

踏み切り板をとべ - 九州の旅(9)

 2021年11月18日(木)

いよいよ熊本市内を見て回る日。とりあえずの目当ては橙書店。村上春樹さんによるエッセイで初めて知って以来、この書店にはずっと行きたかった。

カブでも行けるけど、ここはあえて路面電車で行ってみようかと一度路面電車に乗ったのだが、間違えて反対方面に乗ってしまう。これはカブで行けということだな、と思う。結局一駅先で降りて(情けない気分だ)もう一度駅に戻って裏の駐輪場に廻り、カブに乗って町へ。

12時ごろに橙書店に到着。昨日の夜もこのあたりを通ったが、その時には場所が分からなかった。看板らしきものは(ほぼ)出ていなくて、とても分かりづらい。それがいい。カブを建物の下に停めて階段を上がる。

ちりん、とドアが鳴って、本で読んで想像していた通りの内装。いや、想像よりもいい。

看板猫はいない。でも、猫のベッドと砂場はある。

本をじっくり見る。

せっかくだからゆかりのある本を買おう、と吟味する。

ひとまず一通り見てから、頃合いを見て「食事いいですか」と言って席に着く。チキンカレーとコーヒーを頼む。

もう一人若い女性の人が隣で何かを飲みながら、じっくり外を眺めていた。 

僕は店内のスケッチをした。

そのうち、店主の田尻久子さんと顔馴染みの、女性の方々が何人か来た。楽しそうに話している。店内は本を見るお客さんでも賑わってくる。おそらく20代の男女5,6人。若い人ばかりだ。

自分が飲んだコーヒーのカップをカウンターに下げるついでに、久子さんとカウンターにいたお客さんと、少し打ち解けた雰囲気になったので話をする。横浜の本屋で手伝いをしていて、という話をし、店名を出すと、あっ、生活綴方ですか、なんだ、アルテリ置いてくれてるじゃないですか、と、嬉しそうにしてくれる。

そこからは話が弾んだ。

そのまま、近所の美術館でやっている展覧会の招待券までいただいた。

シュヴァンクマイエルの本と、渡辺京二さんの本、それから田尻久子さんの著書、そして雑誌「アルテリ」を、合計9000円分ぐらい買った。

2時間は中で過ごしがお店を辞去し、カブで、古書汽水社、ポアンカレ書店を覗いてみた。どちらもやっていなかった。ポアンカレ書店は元々ガソリンスタンドだった西洋のお城のような建物である。Googleマップを見ると閉業となっているが、後で調べると、日曜日しか開いていない、とのこと。でも、もうやっていないのだろうか。

デパートの中にある美術館でやっている展覧会にも行ってみる。カブはそこから少し行ったところのまちの駐輪場に停める。

「こわいな!恐怖の美術館展」というその展示、入り口はお化け屋敷になっていて、そこから先は、怖い絵や彫刻やらが展示されている。じっくりとでも1時間ほどで見られる内容に力のある作品が詰まっていて、お客さんも多すぎず、とても見やすくて、やっぱり熊本は文化度が高いなあ、と感心する。

この展示の最後のいしいしんじ氏の作品を本の形にしたものを、橙書店が発行している。そのために招待券を貰えたのである。

まちを散策しつつ、駐輪場の場所も少しずつ把握していく。バイクで移動するときはこれが大事だ。乗っているのもカブなので、大体の駐輪場に停めることができる。しかも、2時間までは無料、というところも多い。なんて親切な町だろうか。

美術展を出て、このまま帰るのもなあ、と思って、街からすぐのところにある江津湖まで行ってみる。バイクで走ればあっという間、15分ほどだ。

北側から、右回りで南の端まで行く。湖自体は小さなものだが、その周りを取り囲む公園がきれいだ。南の方に大きな駐輪場があったので、そこにバイクを停める。それなりに寒いが、セブンティーンアイスのチョコレート味を買って食べた。朝ご飯を食べず、橙書店のチキンカレーも食べきりサイズだったので、まだまだお腹が空いていた。

駐輪・駐車場のところはとても広い芝生の広場になっている。そこで遊ぶ犬たち、子供たち、大人たちの様子がのどかだった。

気つけば空は夕暮れに染まっていて、手前に江津湖、奥には雲仙岳が少し靄がかって見えた。

その様子を見ていて、僕は明日この土地を去る気になれなくなって、もう少し熊本にいよう、と思った。



0 件のコメント:

コメントを投稿