新幹線を越後湯沢駅で降りる。大半の乗客はスノースポーツをしに来ている人たちだ。みんな、大きな棒状のものを抱えて雪で真っ白になった山の方に向かっていく。そういえば7年ぐらい前に、僕は越後湯沢にスノーボードをしに来たことがあった。その時は帰りに新幹線を使ったのだった。だから上越新幹線は初めてではない。
はぁー、と息を白くしてみる。
越後湯沢駅を出ないで、構内で乗り換え、ほくほく線のスノーラビットという電車に乗る。一両電車だ。思わず笑った。会話の内容を聴くと、鉄ちゃんがたくさん乗っているようで、みんなしきりに直江津、直江津と言っている。直江津がどうしたというのだろう。
乗客は、それほど厚着をしているわけではない。むしろ僕が一番の厚着だ。もこもことした小豆色のジャケットを着ている。
スノーラビットは時折雪をゴゴオー、と押しのけるような音を立てて一直線に走る。超特急だそうである。車内の英語字幕を見たら"Cho" rapid train と書いてあった。
30分ほど乗ったら、最終目的地である十日町駅に着いた。雪がこんもり積もっている。駅には、古民家の主である夫婦の旦那さん、しんごさんが迎えに来てくれていた。そこから車に乗り、約20分。山に少し入っていった道路沿いに古民家があった。茶色がベースの二階建て。玄関にはひさしが張り出していて、二階部分にはもうひとつ玄関大の窓がある。屋根は黒い。真っ白な雪とのコントラストがある。
玄関に辿り着くまでには細い道を進んでいく。雪を掻き分けて作った道だ。これから僕たちはこの道を広くする。
家に入ると、奥さんのしのぶさんがこたつで迎えてくれた。7匹の猫たちも思い思いの場所から出迎えてくれる。お茶をしながら自己紹介を済ませる。ぼちぼち時間が経ったところで、はじめましょう、と外に出る。
長岡の方から、たかきさんという方も手伝いに来てくれた。一緒にスコップやら、大きなそりを半分にしたような「スノーダンプ」やらで雪をとにかくザクザクとかいていく。
思い切り雪に薄い金属を突き刺して、てこの原理で大きな塊を崩すのは快感だ。どんな装備で行ったらいいのかわからず、とりあえず上下をヒートテック、さらにTシャツ、シャツ、セーター、の上に、ダウン、の上に防水ジャケット、という出立ちだったが、ものの10分もやっているともう内側に汗をかいてくる。
途中で、たかきさんが平に慣らしてくれた雪上にゴザを敷き、お茶会をした。焚き火をする小さな装置で、薪の火を囲む。コーヒーや紅茶を入れ、僕が横浜から持っていったお菓子のクルミッ子や、キットカットなどのお菓子を食べた。お茶を飲む間に陽が傾き、太陽が山の陰に隠れてしまった。
初日だし、慣らし運転で行きましょう、と2時間ほどで作業を終えた。
なんで俺はこんなところにいるんだろう、と思う。いつもの感じが、戻ってきた、とも思う。人間は情報を得る、ということによって、いきなり知らない土地に行って、知らなかった人たちの家の周りの雪をどけたりするものなのだ。
※※※
雪かきのあとは、車で30分ほど行ったところの温泉に行き、帰ってきたら豆乳鍋を食べながらお酒を飲み、一日を終えた。
あまりこの土地の地理や、名産や、とにかく何も調べないで、ただ指定された場所に指定した時間に行く、というだけだった。それから、猫7匹と人間4人の短い生活が始まった。
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